西武賛江/坂本龍一 ミュージシャン

『ぼくと西武との出合いといえばなんといっても渋谷パルコですね。当時は多分実家住いのバイト学生だったようですから、赤い電話ボックスもなんですが、一階のサテンのコーヒーの高価なことに、その……まっおのろいたっていう……。これが一口にいって出会いなんですね。200円以上のコーヒーなんて絶対飲んでなかった。そういうサテンがあるなんて信じられない。今、回想しているだけで激してしまう。その、怒りっていうかなんというか……。つ、つまりその<キャフェ・ド・ラペ>はコ、コーヒーが250円だった、否、280円だったのかもしれない。頭がクラクラしてどうしても想い出せない。 そういう訳でぼくは<キャフェ・ド・ラペ>には今もって2回しかいってない。もちろんあの切りとられた石だたみは好きだ。 西武にうち側から接したのはパルコのCMをやったとき。憧れていた石岡さんと仕事をした。ゴーマン・ミチコのCMでテルさんを知った。「不思議、大好き。」で糸井さんも知った。向田邦子の2時間ドラマの3分CMもやった。あれは全く自由に作って、とてもうまくいって、今でも、気に入っていて時々カセットを聴く。あの時の曲をイギリス用のシングル・レコードにしようと計画しているぐらいだ。あれをTVで聴いた友達やファンが、絶対おまえだろう、と云っていた。そういえばぼくがCMをやりだしたキッカケはひどくセコくて、名前を出さずに仕事ができるということだ。企画の意識操作に加担するのは気が乗らないけれど名前を出さないことである程度免罪されるとでも思ったのかしらね。ぼくがえらいと思うのは、例えば糸井さんなんかね、意識操作とかっていう古い枠組みを突破する様な仕方でCMをつくっちゃうでしょ。もちろんCMってつまるところ企業イメージのプロパガンダなんだろうけど、だからこそ慎重かつ大たんに大衆的であるっていうことを追求してるみたいで、そういうせめぎあいってのを感じるのね、ぼくは。で、ぼくもやはり慎重かつ大たんにならざるを得なくて、だから今はもう名前がどうのなんて云ってられないのね、そういう意味じゃ、自分でレコードをつくるのと同じレベルで常に最前線の仕事をしたいと思ってるのね。CMでも。そしてそれができる企業って決して多くないと思うのね。ところで東北、関西の主要都市でもガンバってくださいね、西武さん、応援!』

西武のクリエイティブワーク―感度いかが?ピッ。ピッ。→不思議、大好き。」(リブロポート/82年刊)より


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